最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)710号 判決 1949年6月11日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人庭山四郎提出の上告趣意について。
本件の第一審裁判所は旭川地方裁判所名寄支部であり、公訴提起の檢察官は旭川地方檢察廳名寄支部檢事事務取扱である名寄區檢察廳副檢事慶松貞幹であることは一件記録上明確なところであり、所論も之を認むるところである。而してかゝる場合公訴の有効であることは、既に當裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一六三號昭和二四年四月七日第一小法廷判決)。止だ所論中、同判例を引照しても、尚稍々不明であるかも知れないと思料せられる點について、以下少しく説明を加える。即ち所論は檢察廳事務章程は、檢察廳の内部規定であり、從って之を以て檢察廳法の内容を改變する所謂法律事項を規定することは出來ない。しかるに同章程第一三條の規定は、檢察廳法の内容を變改する無効のものであり、從って此章程第一三條の規定に基ずいて提起された本件公訴は不適法のものであると主張するのである。同章程が檢察廳の内部規程であることはその内容から見て明らかである。從って同章程の規定を以て檢察廳法の内容を變改することの出來ない性質のものであることは所論のとおりである。しかし檢察廳法第一二條は「檢事総長檢事長又は檢事正は、その指揮監督する檢察官の事務を、自ら取り扱い、又はその指揮監督する他の檢察官に取り扱わせることができる。」と規定しているところであり、章程第一三條は「地方檢察廳の檢察官に差支があるときは、檢事正は、その廳の檢察官の事務を随時、その廳の所在地の區檢察廳の檢察官に取り扱わせることができる。」と規定するところであって、法の規定の趣旨に從って之に筋道を立て、之を整然と具體化しているに過ぎないものであることは、容易に之を領得することができるのである。而して此各規定の根基とするところは、即ち檢事同一體の原則から來ているものであることも、亦首肯できるところである。以上何れの點から看ても章程第一三條の規定は、所論の如く毫も檢察廳法の規定を變改し、若しくはその趣旨精神に反するものでないことは極めて明らかというべきである。爾餘の論旨に對しては前示當裁判所の判例の説明に譲ることゝする。論旨は理由がない。
仍て舊刑訴法第四四六條に從い、主文のとおり判決する。
此判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重)